meirononeiro

INIのことを好きな気持ちの記録

映画感想:夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく

映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」

JO1の白岩瑠姫さんが主演を務めたと聞いて興味があったため、Amazon Prime Videoで視聴した。

アイドルが主演する映画だし、キラキラ青春系だろうという先入観があった。本編開始後すぐに、キラキラ青春モノではないことに気づく。画面から伝わってきたのは、主人公・茜の息苦しさだった。

 

(注意 ここから先はストーリーのネタバレ)

 

yorukimi.asmik-ace.co.jp

 

かつて与えられたものを今の自分で返そうとする形での愛の話が好きだ。

青磁は小さい頃に自分を救ってくれた同級生(茜)に高校で再会したが、茜は昔とは変わっていて生きにくそうだった。茜は自分のことを忘れてしまったようだけれど、今の自分の姿で相手がかつてくれた言葉や勇気を返そうとする……。お互いが存在することによって、進む勇気をもらえて、それぞれ悩んで動けなかったところから一歩踏み出して別々の道を行けるところも、好きだった。



指先に見えるもの

茜は、自営業の義父やフルタイムで勤務する母の代わりとして幼い妹の世話や家事などを引き受けている。勉強の時間を確保するのが難しく、深夜、勉強中に寝落ちしかけたときに自分の爪の境目をシャープペンシルでえぐる。指先に血が滲み出る。

痛々しくて、思わず目を背けてしまった。

 

茜の青磁への感情が変化したあとの場面でも、印象的な「赤」のシーンがあった。

登校前、身だしなみを整えている最中に、茜は思い出したように机の引き出しを探る。手にしたのは、赤の色つきリップクリーム。茜はマスクをつけて生活をしているので、マスクの下の顔を見せるのは青磁の前だけだ。青磁の前に立つときのことを考えて、指先で唇に赤い色を載せる姿が印象的だった。

茜が何を意図して色つきリップを選んだのかは言語化されないけれど、メイクは自分のための魔法だ。これにより、自傷行為で痛々しかった指先が、自分を大切にできる指先へと変化する。

 

物語の見せ場。茜と青磁は、夜の学校の屋上で、屋上をキャンバスに見立てて絵を描く。

地面に自由に色をのせてゆく二人。制服や靴が汚れることも気にしない。茜がペンキのついた指で青磁の頰を指先でなぞる。青磁もペンキのついた指で、茜に笑顔を描くように、茜の頰をペンキのついた指でなぞる。触れた箇所にペンキが痕跡としてのこることが、映像としてとても美しかった。言葉はない。けれども、茜と青磁が互いのことを大切に思っていることが伝わってきた。

相手に指先で触れたペンキ跡を見て、茜も青磁も、相手の隠していた本心に触れて、互いの心に跡をのこしたのだろうと感じた。

 

屋上の絵も、朝焼けの空も、色づく世界は美しかった。

「夜きみ」は「茜は本心を飲み込んでいる」という問題から茜と青磁の関わりが再開した物語だった。けれども、映画の中で言語化されない感情も豊かで色づいているのを見ると、言葉にしなくても心を通いあわせることはできるのだと感じた。

相手の心にそっと触れた先で、美しい光景が広がるという美しい作品で、とても好きだった。



食事の風景にある孤独

作品の冒頭、茜は朝ごはんを食べずに学校へ行く。コーヒーだけを無理やり喉へ流し込む。義父が茜のために用意したマーマレードトーストは、茜の口には入らない。

義父の誕生日パーティーでも、義父・母・幼い妹は和やかに食卓を囲み、義父の好きな色をしたケーキを取り分けて食べようとする。茜は、一人、切り分けたケーキをラップで覆う。

学校でも、誰にも見られない階段で、一人でお弁当を食べている。

 

映画の食事シーンを通して、茜が独りであることが強調される。茜が「思っていることを素直に口にしてはいけない」と自戒していることや、周囲に対して壁を作っているように見えるところとも、関わってくる。

 

作品の最後、茜が一晩中家に帰らなかった日の朝、家に帰ると母が入り口の側で待っていた。きっと、茜のことが心配で一晩中眠らずに待っていたのだろうと思う。母親に抱きしめられ、義父に迎えられ、茜はようやく涙を流す。

ペンキでベトベトになった髪のまま、茜は父・母・幼い妹と共に、朝ごはんの食卓につく。出てきたマーマレードトーストは、9等分されている。作品冒頭に出てきた一枚の茜用トーストとは違い、家族四人で分けあって食べられるように切られているのだ。

「見えているもの」は「仲の良い家族が共に朝食をとる風景」だが、これは茜が自分の感情に向き合えたから生まれた光景だ。見せないように存在していた壁を壊せたのも、青磁と交流する中で、自分の気持ちに素直に向き合えたからだと思う。

 

個人的に、朝ごはんは食べた方がいいと思っている。空腹だと、気分が落ち込むし、勉強にも力を入れられない。家に帰ってきた茜の最初の行動として、「家族と朝食を取る」という場面が選ばれたことがとてもよかった。もちろん、家庭環境の問題が全てさっぱりと解決するというわけではない。だが、食卓を囲む風景を見て、これからは茜は家族と共に朝食をとってから学校へ行けるようになるのだろうなという予感がした。

この描写があったから、「夜きみ」という作品が好きになった。




 

 

ここまで、初見の印象を大切にしたいと思い、映画を見返さずに書いた。だから、もしかすると誤解しているシーンもあるかもしれないし、書ききれないところも多いのだけれど、構図や色使いがとても美しい作品で、出会えてよかった作品だ。

 

最後に、白岩さんが演じた青磁のことを最後に少しだけ触れておく。

青磁はとてもかっこいい人だったので、青磁のことを好きにならない方が難しいと思う。すごくかっこいいのだけれど、格好つけているわけではなくて、自然体でかっこいい。そして、時折不恰好になっても、すごく素直に表現をする人だった。

白岩さんは良い作品に巡り会えたのだろうなと感じた。

 

また見ます。